アミール・ナデリ監督『CUT』インタビュー

 イランを代表する鬼才・アミール・ナデリ監督が、『ニンゲン合格』、『サヨナライツカ』などの西島秀俊を主演に迎え製作した『CUT』。12月17日(土)から公開される本作は、全ての映画ファンの胸に突き刺さる、力強い映画愛に満ちた渾身作になっている。

 今回、プロモーションのため日本に滞在するアミール・ナデリ監督に貴重なお話を伺いました。監督の思いが非常に強い、とても熱いインタビューだったので、できる限り再現性をもってそのまま表記します。 (N:ナデリ監督/ I:筆者)

I:まず、主人公の秀二というキャラクターに関してお聞かせください。

N:秀二は日本の映画監督であり、映画を守るラストサムライです。日本の昔の映画を守るために叫びをあげています。自分の国の映画は自分の国できちんと尊ばれ、守らなければならないのです。

I:この映画では、現在の映画界で名画がなかなか見られないことや、商業主義の映画が多いため芸術としての映画がなかなか作りづらい環境にあるという問題が描かれます。このテーマに関してお聞かせ願えますか?

N:ジョン・カサヴェテスの晩年の映画にスタッフとして参加しましたが、あれほどの名監督なのに、最後は観客に見向きもされないような状態でした。ジョン・カサヴェテスの映画作りと、世界の映画史についての映画を作りたいと思いましたがうまくいかず、この企画をやめようかと思った時、6年前に東京フィルメックスで西島秀俊さんに出会ったのです。彼も映画が大好きで、日本映画を守りたいという同じ気持ちを持っていることがわかったんです。

I:なかなかインディペンデントな映画つくりが難しいという問題は、他の国でもあると思うのですが、この『CUT』の舞台が東京になったのはなぜですか?

N:西島秀俊さんとの出会いが全てのスタートでした。彼もまたジョン・カサヴェテスが好きだった。出会ってからいろんなことを話し合ううち、世界の見方に対する角度が私と似ていると思った。そこから西島さんをベースに秀二のキャラクターを膨らませました。彼がいたから東京が舞台になったといっても過言ではありません。

I:この秀二というキャラクターと、ナデリ監督と、演じる西島さんが三位一体になっていると感じました。

N:ありがとう!彼と出会ったことはこの映画にとって、僕の人生にとってもとても重要な、かけがえのないほど喜ばしいことです。彼は日本で、もっともクウォリティの高い俳優です。そしてそのうちすぐに、世界でも重要な俳優になると思います。個人的にも、仕事を超えて親友になれたことをうれしく思います。俳優として人間くさく、そして日本人らしい。日本人には鍛えて鍛えて強くなっていく<鍛錬>という精神があると思う。西島さんも体を鍛え上げて、この映画に望んでくれました。

I:常盤貴子さんについては?

N:全く新しい常盤貴子像を作ろうと思いました。他のどの映画とも違う、新しく生まれ変わった彼女の真実の姿を撮りたいと思い、髪もショートボブに切り、服装も私のシャツをそのまま着てもらうという飾らない姿にして、内面からの強い輝きを撮ろうとしました。

I:言葉が多くないけれど、目の動き一つで心が通じるような二人の描き方がとても素晴らしいと思いました。北野武監督の『あの夏、いちばん静かな海』という映画では、言葉がなくとも深く感じ取りあい、理解しあう恋人同士が描かれていますが、『CUT』でもそれに通じる親密な関係性があると思いました。

N:どうもありがとう!とてもうれしいよ!!北野武監督のことは、僕もとても尊敬していて、『CUT』のクライマックスの、100本の映画の中では『HANA-BI』を選びましたが、僕も『あの夏〜』は大好きです。彼の映画には、静謐がある。北野監督はTVなど他の仕事で得たお金を東京フィルメックスに提供して、映画を芸術として守ることに貢献されています。彼は、純粋なるアーティストだと思います。

I:映画の中で秀二の体に映画を投影するシーンが、祈りのような、とても美しいシーンだと思いました。あの演出は?

N:あれは、実は私が実際に毎晩やっていることなんです。寝る前に映画をかけて寝ないと、私はよく眠れない。この映画の中のシーンは、秀二の殴られた体を、名画で癒すという意味があります。いい映画は、いい薬なんです。

I:この映画の『CUT』という単語は、いつもコメントをする際に「〜〜〜、CUT!」でしめる、あなたの決め言葉でもありますね。あなたの作品の中でも、もっとも重要な映画なのでしょうか?

N:そのとおりです。私はこの映画をこの日本で作れて、とても幸せです。他のどの国でもなく、この日本で。私にとって、日本文化はとても近しく感じるんです。あとは、スタッフの優秀さも、素晴らしい支えになりました。メイクアップの梅沢壮一さんはアーティストです。秀二の殴られた顔のメイクは、フランシス・ベーコンのようで、その技術の高さに感服しました。照明も、美術も、それぞれに意匠がこもっており、本当に素晴らしかったです。

I:素晴らしいプロデューサーにも恵まれましたよね。

N:ビターズ・エンドの定井さんは、素晴らしいプロデューサーです。彼が日本で配給を決める映画も名作ばかりだし、映画製作でも素晴らしい功績を残しています。本当に信じられないくらいすばらしいプロデューサーで、何が起こっても「そのまま思うように作りましょう」と、常に支えてくれました。彼なくしてはこの映画は出来上がりませんでした。

N:ところで君はこの映画をどう思った?

I:この映画では、今までに見たことがない、全く新しい西島秀俊や新しい常盤貴子の強靭な美しさが描かれています。観る前と観た後では自分が変わってしまうほど、強烈な映画体験でした。私もこの映画によって、殴られ、打ちのめされ、生まれ変わったような感動を覚えました。

N:うれしいね!それはぜひとも書いてください! Thank you so much ,CUT!

■ ストーリー

映画監督の秀二(西島秀俊)は、映画をこよなく愛し、自作以外でも過去の名作の上映会を開くほどのシネフィル。なかなか新作は撮れなくとも、映画への情熱を持ち続けていた。そんな折、兄が借金のトラブルで亡くなった知らせを受ける。兄は秀二の映画資金調達のため、やくざの世界で借金していたことを知る。兄の死に対する自責の念から、秀二は殴られ屋をすることで借金を返済しようとするが……。

■作品データ

「CUT」

監督・脚本・編集:アミール・ナデリ

脚本:アボウ・ファルマン

共同脚本:青山真治、田澤裕一

出演:西島秀俊、常盤貴子、菅田 俊、でんでん、鈴木卓爾、笹野高史ほか

12月17日よりシネマート新宿他にて公開

(c)CUT LLC 2011

Interview by Chiduko Wagatsuma