スクリーンに映される食べ物がとってもおいしそうで、ほっと心が温かくなる 『かもめ食堂』のヒットから、映画の中にでてくる食べ物が重要視され始めた。それ以前にも伊丹十三監督『タンポポ』などはあったが、『めがね』『マザーウォーター』と続く、この製作スタッフが送る映画を楽しみにする観客は多い。その待望の新作が、今週末から公開される。
「東京オアシス」
出演:小林聡美、加瀬亮、黒木華、原田知世
監督・脚本:松本佳奈『マザーウォーター』、中村佳代
脚本:白木朋子『マザーウォーター』、音楽:大貫妙子、フードスタイリスト:飯島奈美
製作:オアシス計画 (バップ、シャシャ・コーポレイション、パラダイス・カフェ、スールキートス)
配給・宣伝:スールキートス、宣伝協力:アルシネテラン
2011年/日本/カラー/アメリカンビスタ/DTS SR/83分/(C)2011オアシス計画
10/22(土)より全国ロードショー
【イントロダクション】
『かもめ食堂』『めがね』『プール』『マザーウォーター』と、人と場所との関係をシンプルに見つめてきたプロジェクトが次に選んだ舞台は、私たちが日々の暮しを営む街、東京と、そこに生きる自身の姿。小さな出会いから生まれる、ふとしたふれ合いをめぐるこの物語は、二人の監督、三人の脚本家によるアンソロジー。
出演は小林聡美、加瀬亮、そしてプロジェクト初参加の原田知世、映画初出演の黒木華。小林聡美と原田知世の初共演に注目が集まる。
監督は、『マザーウォーター』の松本佳奈と、これまでCMやプロモーションビデオで活躍してきた中村佳代。そして、『めがね』『マザーウォーター』で主題歌を手掛けた大貫妙子が、本作では主題歌と劇中音楽を担当。
日々の風景の中に、そして自分自身の中に、オアシスを探す旅へ出てみませんか。
そこにはきっと、東京の「いま」が見えてきます。
【解説】
この物語は、ひとりの女優の心のさすらいから始まります。フィクションの中で生きる女優という仕事を長く続けてきたトウコは、現実の人生の中で迷子になってしまいます。そんな彼女の前に現れたのは、今の自分と似ているかもしれない、そんな人達でした。
自分自身の実感を掴めず、心は止ったままであり、その自分の現実に抵抗するように、ただ物理的に移動を試みることしか出来ない男。 自分の生き方に疑問を持ち、新しい場所に移動してみたものの、いまだに確たるモノに遭えてないと思い続けている女。これから全てが始まる筈なのに、自分には運がないと思い込み、自分自身の先行きに、まったく希望を見いだせないでいる若者。
カタチの違いこそあれ、何かに迷う人達、そんな彼等に共通しているのは、東京という街に住んでいるということでした。陸続きに国境のない、孤立した列島の国で、情報と人口が集中している大きくて小さな街、東京。場所と人との関わりを静かに感じ続けて来た、プロジェクトが、今、みつめなければならないと思った場所、それは自分たちが日々暮らす、東京しかありませんでした。
この映画は、そんな思いを抱きながら、二人の監督と三人の脚本家によって描かれた東京の街と、そこにいる四人の俳優との心のアンソロジーとも言える物語です。
目黒シネマ…二番館と呼ばれる、ロードショー公開のあとに順次公開される、通好みの映画館。
九十九里浜で、静かに自分と向き合う。
【物語】
深夜の国道。走るトラックへ向かって駆け出した喪服の女・トウコは、コンビニの前でその様子に気づいたナガノの、見事な回転レシーブによって助けられる。車に乗り込もうとするナガノに走り寄り、「乗せてください」と頼むトウコ。二人を乗せ、車は高速道路へ進む。女優として仕事をしているトウコは、衣装を着たまま撮影の現場から抜け出してきたのだと話す。どこかとらえどころのないトウコの話を、半ば疑いながら聞くナガノ。彼もまたゆく道を見失い、止まってしまった人だった。やがて、車は夜明けの海岸へたどり着く。朝もやのかかる風景が、水平線の、その先を見つめるトウコの心をやさしく輝かせていった。
とある夜。トウコは、ふと入った小さな映画館で眠りこんでしまう。目覚めると、そこには懐かしい知り合い、キクチが立っていた。かつてシナリオライターをしていたキクチは、あるとき唐突に仕事を辞め、今は映画館で働いている。あれからは一切シナリオを書いていないというキクチに、トウコは「なぜ辞めたのか」問う。仕事や自分のことを感じるままに語っていくキクチ。彼女がたどってきた悩める道は、トウコが歩み続ける道でもあった。「この頃シナリオを書いていた頃のことを思い出す」と話すキクチに、トウコは「また書いてみたら」と明るく語りかけ、そして自らの中にも新しい風が吹き込んでくるのを感じていた。
のんびりとした動物園。トウコは、からっぽのツチブタの柵の前に佇む女・ヤスコに声をかける。運が良くないとツチブタは見られないと話すトウコに、ヤスコは「私は運に見放された女」だと言い放つ。美術大学を目指す浪人生だったヤスコは、自分に見切りをつけるため、この動物園にアルバイトの面接を受けに来た。そして、その面接にすら「たぶん落ちた」と肩を落とす。動物を眺め、話していくヤスコにまっさらなはじまりの気配を感じながら、トウコは再び、かろやかに歩き出していった。
東京の街にうまれる、日常の中のふとしたまじわり。そんな瞬間を重ねながら、トウコの歩くテンポは決して定まることなく移り変わってゆく。それはまるで駆けてゆくような、そして流れるようにのびやかな、東京という街の持つやさしいテンポである。再び歩き出したトウコの前には、きっと見慣れたはずの、けれど新しい東京の街が、光りゆらめくように動きはじめていた。
秋にぴったりの、この一作、ぜひ映画館で、ゆったりした時間を楽しんでください。